【アルツハイマー型認知症】「家に帰る」と言われたとき|特養職員15年の私がしていた対応

認知症との関わり

夕方になると、そわそわし始める。

そして「もう帰らないと」とおっしゃる。

私は医師でも専門家でもありません。 ただ、特別養護老人ホームで15年間、利用者様やご家族様と関わらせていただいた中での経験をもとにお話しさせていただきます。


「帰りたい」は、夕方に多い

帰宅願望を訴えられる方は、これまでに何人も見てきました。

不思議なくらい、夕方が多いです。

女性の利用者様でしたら、15時ごろからそわそわされる方が多かったように思います。


まず、帰る理由を聞いてみてください

「帰らないと」とおっしゃったとき、 つい「ここがお家ですよ」「まだ帰れませんよ」と言ってしまいます。

でも、その前に一つだけ。

なぜ帰りたいのか、聞いてみてほしいのです。

私が理由を伺うと、女性の利用者様はほとんどの方がこうおっしゃいました。

「そろそろご飯の支度をしなきゃ」

何十年と、家族を支えてこられたお母さんです。

夕方になったら台所に立つ。 それは症状ではなくて、その方が生きてこられた時間そのものなのだと思います。

その気持ち、すごく分かります。


私が実際にお伝えしていた言葉

理由が分かると、かける言葉が変わってきます。

「今ね、私が大量におかず作ってるから、できたら持って帰って味見してほしい」

晩ごはんのおかずにもなるよ、とお伝えします。

すると少し安心されて、お茶を飲みながらお話ししてくださることがありました。

役割を取り上げないこと。 むしろ「あなたにお願いしたい」とお渡しすることが、大事だったように思います。

「今日、うちの子と遊ぶ約束をしてて。ここに一緒に帰ってくるから、行き違いになっても困るし、ここで待ってましょう」

「帰らないでください」ではなく、ここで待つ理由をお伝えします。

「子どもが帰ってきちゃう」と急いでおられる方には、この言い方が届くことがありました。

「みんなお家まで送るんだ〜。順番が来たら声をかけてくれるから、うちも同じ方面だし、一緒にいましょう」

これは、それでも急がれる方にお伝えしていた言葉です。

帰ること自体を、否定していません。 帰れる。でも今は順番待ち。そして、一人ではない。

「あー、よかったー」

そう言って笑顔になられることがありました。


男性の利用者様は、少し違いました

男性の場合、帰りたい理由は「仕事」であることが多かったです。

そういうときは、こうお伝えしていました。

「仕事ができるように、もう少し体力が戻るまでリハビリ頑張りましょう」

すると、お仕事の話をたくさんしてくださいます。

そうしているうちに夕食の時間になり、就寝の時間になる。 そこで「今日は泊まりだったよ〜」とお伝えすると、納得してくださる方が多かったです。


私の経験では、女性の方のほうが「帰る!」という意思が強かったように思います。

今考えると、女性の方には「今日の夕飯」という締め切りがあったからかもしれません。


それでも、どうしてもダメな日があります

正直にお話しします。

一度、何をお伝えしても帰る気持ちが強く、不安をぬぐえないことがありました。

とても頑固な利用者様でした。


ここで一つ、気づいたことがあります。

そういう日は、天候が悪かったり、季節の変わり目だったりすることが多かったように感じます。

「今日は特にひどい」という日があるとしたら、 それはご本人のせいでも、ご家族のせいでもないのかもしれません。


半袖で、一緒に外に出た日のこと

その日は、どうしようもなくて、一緒に外に出ました。

杖歩行の方でしたが、帰るときの歩行はいつもより速いんです。

季節は秋から冬に変わろうとしていた頃でした。 利用者様には冬用のアウターをなんとか着ていただいて、 私は半袖のまま外に出ました。

上着を取りに行く時間も、携帯を持つ時間もありませんでした。


幸いだったのは、その方が家の方向が分からず、私に道を聞いてくださったことです。

だから私は、施設の周りをぐるぐる回るような形で歩き続けました。

歩行がおぼつかなくなったら、すぐに施設に戻れるように。

何周したかは分かりません。 それなりに長く歩き続けたと思います。


やがて、利用者様が疲れてこられた様子が見えました。

そこで、こうお伝えしました。

「ここ、私の知り合いの旅館です。少し休んでいきましょう。 私も半袖で、寒くて」

すると、その方はこうおっしゃいました。

「そうだね〜、あなた風邪ひいちゃうじゃない!」


私を心配してくださったんです。

そうして、一緒に施設に戻ることができました。

その利用者様は、外の空気を吸って落ち着かれたのか、 それとも疲れられたのか。

その後は夕食を召し上がって、ぐっすり眠っておられました。


認知症になっても、その方はその方のままです

ずっと、私がなだめようとしていました。

でも最後に事態を動かしたのは、その方が私を気遣ってくださったことでした。

説得でも、ごまかしでもありません。

その方の中にずっとあった「人を思いやる心」が働いた。 それだけのことだったのだと思います。

認知症という診断がつくと、 「もう分からなくなってしまった人」のように見えてしまうことがあります。

でも、そうではありません。


今日、一つだけ試すとしたら

「まだ帰れないよ」の代わりに、

「どうして帰りたいの?」

と聞いてみてください。

理由が分かると、かける言葉が変わります。

そして、どうしてもダメな日があっても大丈夫です。 私も、半袖で外に出た日があります。

焦らず、責めず、自分を責めずで。

一人で抱え込まず、ケアマネジャーや施設の職員に相談してみてください。


※この記事は、私が現場で経験したことをもとに書いています。診断やお薬のことについては、必ず主治医やケアマネジャーにご相談ください。 ※外に出る対応は、安全が確保できる状況でのみ行っていたものです。ご家庭では、必ずご無理のない範囲でご判断ください。

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