「家で見てあげられなくて、ごめんね」
そう思いながら、面会に来られるご家族様がいらっしゃいます。
私は医師でも専門家でもありません。 ただ、特別養護老人ホームで15年間、利用者様やご家族様と関わらせていただいた中での経験をもとにお話しさせていただきます。
入居されたばかりの頃は、みなさん遠慮されています
新しく入居された方は、遠慮されていて、不安な表情をされていることが多いです。
知らない場所。知らない人。知らない時間の流れ。 当たり前だと思います。
そういうとき、私は無理にお話を聞き出さないようにしていました。
横に座って、時々話しかける。 その方が「この人に伝えたい」と思ってくださるまで、そばで仕事をしている。
じっと見つめられると、気を遣わせてしまいますから。 何かをしながら、隣にいる。それくらいがちょうどよかったように思います。
そして時々、私の失敗談をお話しして、笑っていただいたり。
先に、こちらが開くこと。 それが、その方が話してくださるまでの近道だったように思います。
ご家族様が来られたときの表情
面会にご家族様が来られると、みなさん本当に安心した表情をされます。
そして同時に、伝えたいことがたくさんありそうな顔をされるんです。
あれもこれも話したい、という感じで。
ご家族様が帰られた後は、人それぞれです。
余韻を楽しんでおられる方もいれば、 寂しそうな表情をされる方も、いらっしゃいます。
隠さずにお伝えすると、そういうものです。
でも、それは面会に来ないほうがいいという意味ではありません。 寂しくなるのは、嬉しかったからです。
10年目に、ふと思ったこと
正直にお話しします。
私は、最初からこういうことを考えていたわけではありません。
勤務年数が10年を過ぎたあたりで、ふと思ったんです。
この方たちは、家に帰りたいよね。 家族といたいよね。 自分の生活習慣があるよね。
でも、我慢して、みんな同じ時間に行動している。
そう思ってから、以前より表情をよく観察するようになりました。
そうしたら、見えてきたんです。
会話をしているとき以外は、無表情。 特に何かに興味を持たれるわけでもない。 職員はバタバタしている。
何この環境。
そう思いました。自分が10年働いてきた場所に対して。
「ここにいたい」と思ってもらうのは、無理です
これは、はっきり書いておきたいことです。
施設を、家のかわりにすることはできません。 「ここにいたい」と思っていただくのは、無理だと思います。
私はそこを、無理だと認めることにしました。
そのうえで、こう思いました。
少しでも、笑顔の時間を増やしたい。
「この子といたら、ホッとできるわ〜」 そう思っていただける存在に、場所になりたい。
そこからは、それだけを考えてやってきました。
私が変えたこと
目を見て挨拶する。
そのとき、その方とだけの会話を楽しむ。
「時間がない」ではなく、時間を作るようにした。
まず、この時間を作ることに集中しました。
正直に書きます。 施設の現状は、常に誰かに待っていただいている状態です。
あの時の私は、この時間を作ることしかできませんでした。
それで、何が変わったか
少しずつでしたが、変わっていきました。
利用者様が、私の顔を見ると笑顔で「おはよう」と言ってくださるようになりました。
「今日は出てくるの遅いね」
そんなふうに、利用者様のほうから話しかけてくださるようにもなりました。
気にかけていただく側になっていたんです。
そして、私自身も変わりました。
施設にいる時間、自然と笑顔が増えていました。
笑顔を増やしたいと思って始めたことなのに、 私が利用者様のおかげで、笑顔でお手伝いをさせていただける関係になれたんです。
ご家族様にお伝えしたいこと
施設に預けることを、申し訳ないと思っておられるかもしれません。
本当は家がいい。 それは、その通りだと思います。私もそう思いながら働いていました。
でも、だからこそ、私たち職員がいます。
ご本人が少しでもホッとできるように。 少しでも笑顔になっていただけるように。
そう思って働いている職員が、施設にはいます。
ご家族様も、無理をしない環境が必要です
これは、ぜひお伝えしたいことです。
ご家族様が無理をせずに生活できる環境も、同じくらい大切です。
疲労が重なると、どうしても、家族であるがゆえに感情が爆発してしまうことがあります。
それは愛情がないからではありません。 近い存在だからです。そして、疲れているからです。
介護は大変です。
綺麗事では済まないことが、たくさんあります。
だから、大変なところは介護士に任せてください。
それが私たちの仕事です。
そして、笑顔で面会に来てください
正直に書きます。
介護士では、どう頑張っても、利用者様に心の底から安心していただける環境は作れません。
私たちがどれだけ丁寧に関わっても、届かないところがあります。
ご家族が笑顔で顔を見せてくれる。 自分のことも気にかけてくれている。
それが大事なんじゃないかなと、私は感じています。
ご家族が元気で、笑顔でいてくれること。
それが一番だと、私は現場を見てきて感じました。
だから、笑顔で来てください。 それだけで十分すぎるくらいです。
そして遠慮せずに、たくさんお話しして一緒に笑顔の時間を過ごしてください。
みなさん、伝えたいことがたくさんある顔をされていますから。
焦らず、責めず、自分を責めずで大丈夫です。
一人で抱え込まず、施設の職員にも声をかけてみてください。
※この記事は、私が現場で経験したことをもとに書いています。施設によって環境や体制は異なります。


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